大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和22(れ)178 判決

主 文

本件上告を棄却する

理 由

弁護人宮岸友吉の上告趣意書第一点は原審判決に記載されてゐる犯罪事実の認識

は誤まつてみる即ち原審では本件被告人が「被害者Aの反抗を抑圧するために強迫

の手段を用ひて姦淫の目的を遂げた」といふ趣旨の事実認定があるけれども本件記

録を精細に見れば前記A或種の興味に基づく暗黙の同意或は積極的な冒険心による

被告人の行為容認があつたと見るべき事実が沢山ある例へば被害者姉妹が始め被告

人に出会ひ妹娘にだけ先に帰れと言はれたとき被害者Aもすぐ同調子で帰れといひ

その当時は別段こわくなかつた(原審公判廷のA証言)と言つてゐるのに却つて年

若の妹娘が若干の危険を感じて帰宅早々兄を伴なつて自転車でAを迎えに来たこと

(原審公判廷に於けるBの証言その他)右Aが被告人と行動を伴にし関係したとき

の態度対話(本件記録中に詳細である)等は殆んど成年の女子も及ばない程落つい

たものであり少女が貞操の価値を認めてそれを守るための積極的な努力をしたとは

認められないのである勿論本件は十三才未満の婦女の姦淫行為であるから手段たる

強迫行為や被害者の同意は法律上問題とならないように見えるが上告理由第二点で

次に述べる傷害を負はせた点について手段たる関係に違法性を帯はしめるかどうか

に重大関係のあることであるし十三歳未満の女の場合でも情状として看過出来ない

こと柄であるそれを原審が強迫手段を用ひての姦淫であるように認定してゐるのは

甚しく非科学的であり重大な事実の誤認であると思ふ須らく原審は次に述べる上告

理由をも併せて考量し幸ひ被告人に対する被害関係者の告訴取消事実もあることで

あり本件公訴は棄却せらるべきものであつたに拘はらずそのことがなかつたのは遺

憾で到底原判決は破毀を免れないものであると云ふにある。

しかし原判決は被告人は本件被害者が十三才未満であることを知りながらこれを

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姦淫し因つて判示の傷害を負わした事実を確定し刑法第百八十一条第百七十七条後

段の規定を適用処断したのであるから被告人が姦淫に際して脅迫手段を施用したか

否やは犯罪の成否に関係ない問題であるしからばたとえ原審が脅迫手段を施用した

と認定したものとしてこれに重大な事実の誤認があつたとしても犯罪の成立を阻却

するものではないのみならず事実の誤認は適法な上告理由にならないのである又本

件については告訴の取消があつたことは記録上明かであるが本件は強姦致傷として

起訴され且原審認定の事実も前示の如く強姦致傷であるから告訴の取消があつても

公訴棄却の判決となすべきではない。よつて論旨は総て理由がない。

上告趣意書第二点は原判決は又本件被害者致傷の点即ち本件被告人の暴行と被害者

の身体中に昭和二十一年八月六日午後五時頃発見された外陰部処女膜裂傷皮下溢等

との間に因果関係があると認定されてゐる然しそれは甚しく非科学的な認識である

といわざるを得ない当弁護人は裁判官の事実認識批判も特別のものであつてはなら

ず必ず現代科学の容認するところのものでなくてはならないといふ見地に立つもの

であるが試みに当弁護人の知る範囲の一、二法医学書について本件関係事実を挙げ

て見ると「強姦の場合十四才以下では指かPenisかで触るだけでキズはつけな

いことが多い……少女に既遂があれば会陰破裂膣粘膜裂傷其他夥しい出血がありそ

のため死ぬこともある精神異常でない限り少女への挿入は自分にも痛みがありヒド

イキズが出来ようから遂行せぬ……十七、十八歳以上で挿入可能の場合は最初の交

接で処女膜が破られる之が破瓜である……破れればその瞬間痛みが甚しく少しの出

血がある……処女膜が著しく破れなくても内診に際して二指又はそれ以上の指が楽

に入られる時は屡Coitusが行はれたことを証示する処女では一本の指位しか

入らぬ(C著法医学一八七頁以下)」「処女膜の損否のみによつて婦人の処女問題

を決定出来るかと云ふに世の中のことはそう簡単に行かない時とすると異性に接せ

ない処女でも月経の始末とか或は甚だしく足を開いて仆れるとかいふ時に弱い処女

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膜であると破れることがあるから破瓜してゐる故直に処女にあらずといふことが出

来ないと共に処女膜が完全であつても必ずしも処女といふことは出来ない……強姦

の訴があつた時には先づ第一に婦人はかゝる際に仲々嘘を云ふものであるといふこ

とを考慮の内に入れて検査に着手し……今日迄の報告によると男女略同体格であつ

たならば女の得心なくしては決して完全な性交は出来ないものとされている(D著

法医学綱要七八頁以下)」等の記述を発見することが出来るそこで原審でもつと深

く見て貰ひたかつたことは本件被告人が前記Aに暴行を加える数分前か数時間前に

既に同人の処女膜が何等かの理由即ち被告人の行為以外の事実によつて破れて居な

かつたかどうかの点であるわれわれの常識を以てしても先づ疑はねばならない点で

あり殊に皮下溢血の原因については何も証明されて居ない(皮下溢血の傷害は交接

行為のみによつて起り得るものでないことは原審公判廷に於けるE医師の証言で明

かである)而もこれ等を科学的に証明することは困難でも不能でもなかつた故に弁

護人は原審で更に鑑定人(法医学家)の申請をしたが不幸原審の容るるところとな

らなかつた。そしてそれに替えるに前記の様な事実の認定とはなつた次第であるが

之を要するに前記E医師の検診書と被害者Aの供述だけでは決して本件致傷の事実

を被告人の行為に帰せしめるのは早計であり非科学的であると思ふし証拠として不

充分であると思ふその一例として前記検診書の出来た模様を見ると本件被害者が強

姦されたから見て貰ひ度というので同医師は始めからその強姦の事実を理由づけよ

うとして診たのであり先づ客観的事実を見てその上でその事実傷害の生じた原因を

考えるといふ科学的態度を全く欠いて居たといわねばならないその不合理的思考の

矛盾は原審公判廷の供述にも度々現はれてゐるが尤も著しいのは前記検診書の記載

内容でありそれには傷害の事実は強姦によつて生じたものであり完全に陰茎を膣内

に挿入された云々と現場でも見て居つたような書き方であるそんな風では同医師が

検察官や裁判官から鑑定の依頼でも受けた場合は格別そうでもないのに裁判官や検

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察官のつもりで単なる自然事実を見て居つたと見ねばならずそれは甚しい錯覚とい

わねばならない結局原判決中傷害事実については不充分の証拠しか認められないか

らその点では無罪の判断を受けなければならなかつたのにそのことのなかつたのは

違法であるから原判決は破毀せらるべきであるといふに帰するか茲で更に強調した

いと思ふことは従来過去の大審院が犯罪事実認定の資料や証拠に対して執つて居た

態度ひいては一般裁判官の心理状態にも充分影響して居たと思はれること即ち挙示

の証拠を以てすれば斯々の事実を認定し得さるに非ず」といふことでありそれは文

字通りに言つても「認定することも出来るししないことも出来る」といふ意味であ

り私見を以てすれば謂はば犯罪事実の相対的認識とも言はるべきものでありそれは

今日新憲法下の刑事裁判に於ては到底容認せらるべきではなく今日われわれ国民の

気持としては具体的刑事事件につき裁判官各位に対しこれこれの証拠資料を以てす

れば絶対的にかゝる事実認定に到達せざるを得ないから他の事実を認定する必要は

ないし出来ない」といふ心理過程と判決書に対しその或程度の表現とを期待して止

まないものである又斯くしてこそ始めて国民の基本的人権擁護に完ぺきを期し得る

ものと考える原判決はこの点についても再検討せらるべきものと信ずると云うにあ

る。

しかし原審の挙示する証拠により原判示の事実を認定するに充分であつて右認定

をもつて非科学的であると云うことはできない所論は原審の専権に属する事実認定

の批難であつて適法の上告理由として採用することはできない

よつて本件上告は理由がないから刑事訴訟法第四百四十六条により主文の如く判

決する

この判決は裁判官全員の一致の意見である

検察官長部謹吾関与

昭和二十三年二月七日

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最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 塚 崎 直 義

裁判官 霜 山 精 一

裁判官 栗 山 茂

裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 藤 田 八 郎

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